フレイルチェック

多くの場合、加齢による老化は一気に進むわけではなく、徐々に進行していきます。そのため健常な状態からフレイルの段階へと移行しているにもかかわらず、気づいていない人や、介護が必要になって慌てる人が少なくありません。
フレイルは介護が必要になる一歩手前ですが、フレイルの段階で対策をすれば回復することが可能です。フレイルの兆候をできるだけ早く発見するためのさまざまなチェック方法をご紹介しましょう。

❶ フレイルの診断基準

フレイルの診断には、世界的にCHS基準(The Cardiovascular Health Study)が使われています。日本の医療機関ではこの基準を日本の高齢者に合わせて改変した「日本版CHS基準(J-CHS基準)」を用いて、診断がおこなわれます。

日本版CHS基準

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターが、J-CHS基準を改訂。日本語の原版は上表のとおり。
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター
https://www.ncgg.go.jp/ri/lab/cgss/department/frailty/

❷ フレイルの基本チェックリスト

基本チェックリストは、近い将来介護が必要となる危険の高い高齢者を抽出するスクリーニング法として開発されました。2006 年の介護保険制度改正から、要介護のリスクが高い高齢者を早期に介護予防や日常生活支援につなげるためのツールとして、市区町村や介護事業者などに利用されています。
リストは日常生活関連動作や運動器、低栄養状態や口腔機能など 25 個の質問項目で構成され、「はい」または「いいえ」で回答する方式です。いずれの項目も「フレイル」の要素としても重要なので、高齢者やその家族が、生活や健康状態を振り返り、フレイル状態になっていないかを把握するツールとしても活用されています。多くの研究では、8項目以上該当でフレイルと判定しているようです。

基本チェックリスト

❸ フレイル健診の質問項目

2020年度から75歳以上を対象にした後期高齢者医療制度の健康診査(健診)で、フレイル状態のチェックもおこなわれるようになりました(フレイル健診)。
前年度までの健診では、メタボリックシンドローム対策に着目した質問票が使われてきましたが、フレイル健診ではフレイルなどの特性を踏まえ、健康状態を総合的に把握するための「後期高齢者の質問票」に変更されています。
質問票は、「体と心の健康状態」「口腔機能」「運動・転倒」「認知機能」「喫煙」「社会参加」など15項目で構成され、後期高齢者だけでなく75歳未満もフレイル状態かどうかをチェックできる内容になっています。
また、健診の際に活用されることを想定した質問票ですが、地域サロンなど市区町村の介護予防や日常生活支援における通いの場やかかりつけ医の医療機関、高齢者のセルフチェックなど、さまざまな場面での活用が期待されています。

フレイル健診の質問項目(後期高齢者の質問票)

出典:厚生労働省「後期高齢者の質問票の解説と留意事項」2019

❹ 簡単チェック法(指輪っかテスト+イレブンチェック)

フレイル健診などで使われる基本チェックリストは、25の質問で構成されています。さらに、医療者などが評価する想定で作成されているため、セルフチェックに使うのはむずかしいと感じる高齢者も少なくありません。
そこで東京大学高齢社会総合研究機構(IOG)の飯島勝矢教授らの研究チームが、誰もがいつでもどこでも簡単に実施できる「フレイルチェック」を考案しました。

フレイルチェックは、「指輪っかテスト」と「イレブンチェック」で構成されています。
指輪っかテストは、「筋肉量の減少と筋力の低下(サルコペニア)」から、身体的フレイルが進行しているかどうかを評価する方法です。左手の右手の人差し指同士、同じように親指同士を結んで、ふくらはぎのいちばん太い部分を囲むように輪を作ります。結果を「囲めない」、「ちょうど囲める」、「隙間ができる」の3グループに分け、サルコペニアの危険度を判断します。
一方、イレブンチェックは11の質問に回答し、「栄養」、「口腔」、「運動」、「社会性・こころ」の面から自分のフレイル度を総合的に評価します。質問には「はい」と「いいえ」で回答し、右側の欄(B)への◯が多いほど、フレイル度は高くなります。そのB欄の◯が6つ以上になるとフレイルのリスクが高まることが、飯島教授らの研究によってわかっています。

指輪っかテスト + イレブンチェック

❺ 栄養チェック

やせや低栄養は、フレイルを加速させる要因の一つ。日々の食事を通じて良好な栄養状態を保つことが、フレイル予防につながります。日々の食事内容など「栄養」に着目したチェックリストを紹介します。

栄養チェック

❻ オーラルフレイル・チェック

口には、「食べる」「飲む」「呼吸をする」「話をする」「唾液を出す」といったさまざまな役割があります。しっかり噛んで飲み込むことで良好な栄養状態を保つことができ、誤嚥性肺炎を防ぐこともできます。会話をすることで人と交流し、心地よい日々を過ごすことにもつながります。
口の機能も年を重ねるとともに衰えていき、「オーラル・フレイル(口腔機能の老化)」を引き起こします。オーラルフレイルは足腰の老化などと比べるとわかりづらいですが、チェックをしてみると思い当たることも多いもの。定期的にチェックすることが大切です。

オーラルフレイルのセルフチェック表

出典:東京大学高齢社会総合研究機構 田中友規、飯島勝矢

監修医師

荒井 秀典先生

国立長寿医療研究センター 理事長

昭和59年、京都大学医学部卒業。
昭和62年、京都大学医学部大学院医学研究科博士課程(内科系専攻)入学、平成3年、修了。

<職歴>
昭和59年、京都大学医学部附属病院内科勤務
昭和60年、島田市立島田市民病院勤務
平成3年、京都大学医学部老年科医員。助手
平成5年〜平成9年、カリフォルニア大学サンフランシスコ校ポストドクトラルフェロー
平成9年〜平成15年、京都大学医学部老年内科助手
平成14年~平成16年、文部科学省研究振興局学術調査官
平成15年〜平成21年、京都大学大学院医学研究科加齢医学 講師
平成21年〜平成26年、京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 教授
平成27年〜平成30年、国立長寿医療研究センター 副院長
平成27年〜平成31年、国立長寿医療研究センター老年学・社会科学センター長
平成29年〜現在、国立陽明大学客員教授
平成30年〜平成31年、国立長寿医療研究センター 病院長
平成31年〜現在、国立長寿医療研究センター 理事長
令和元年〜現在、同志社大学客員教授

<資格>
医師免許取得、日本内科学会認定内科医、京都大学医学博士学位取得、日本内科学会総合内科専門医、 日本老年医学会老年病専門医、日本老年医学会老年病指導医、日本動脈硬化学会動脈硬化専門医

<受賞歴>
2014年、JAT(Journal of Atherosclerosis and Thrombosis)賞
2021年、John Morley Award

<その他>
日本サルコペニア・フレイル学会 代表理事、日本老年医学会 副理事長、代議員
日本老年学会 理事長、日本動脈硬化学会 副理事長、評議員、日本老年薬学会 理事
日本脆弱性骨折ネットワーク 理事
Vice President of Asian Association for Frailty and Sarcopenia, Asian Academy of Medicine for Ageing (President), Secretary General of the Asia Pacific Federation of International Atherosclerosis Society, IAGG council member
日本学術会議第25期 会員(第2部、臨床医学委員会)
長寿科学研究振興財団 理事、小野医学研究財団 評議員、興和生命科学財団 評議員、杉浦記念財団 評議員

※2022年当時の情報となります

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